「徳右ェ門 古今つれづれ語り」第一話

  • 2009.08.11 Tuesday
  • 16:29
この度、和こもの花影抄で作品を取り扱っている作家のコラムを当ブログで連載する運びとなりました。モノづくりの姿勢や作品へのこだわりなど、作家の生の言葉をお伝えすることによって、作品に込められた作家の想いをお客様により身近に感じて頂ければ幸いです。

連載コラム第一弾は、「小間物屋 徳右ェ門」の登場です。
小間物屋 徳右ェ門は、物を長く大切に使って再利用する昔ながらの始末の心、今で云う、エコとリサイクルがコンセプトのブランド。家にある着物や象牙の端材を使い、縫製と象牙彫刻を母娘の職人が分担して作品を制作しています。象牙の前飾りがついた名刺入れや数寄屋袋は、二人三脚の技術とセンスが相まって、他に類を見ないオリジナリティとクオリティの高い仕上がりでご好評を頂いています。

それでは、徳右ェ門コラムのはじまりはじまり。情緒溢れる口調で語られる楽しい読み物を、どうぞ皆様ご高覧下さいませ。
(和こもの花影抄担当:大橋)


「徳右ェ門 古今つれづれ語り」第一話 ● 小間物屋 徳右ェ門謹製 『復刻 袂おとし』 ●

小間物屋 徳右ェ門でございます。
数年前の徳右ェ門展の折、こちらでご挨拶させていただいておりますがお初の方々も多々いらっしゃる事と存じます。

さて、皆様は「たもとおとし」という言葉を耳にしたことはございますでしょうか?
漢字で書きますと「袂落とし」。
読んで字の如く、キモノの袖の袂(たもと)に落とすという意味でございます。

ほんのちょっと、つい100年ぐらい前、日本の皆様がキモノを着て暮らしていた頃まで使われていた小さい袋物の呼び名ですが、ご維新後あれよあれよと洋装化が進み、いつの間にかこの日本から姿を消してしまったモノでございます。
江戸から明治にかけてシーボルトが日本から持ち帰った収集コレクションの図録に載っていたり、また古(いにしえ)の袋物コレクションの中にひっそりとその片鱗を見かけるばかりで、今では、その言葉すら忘れ去られようとしております。

ご存知の通り、キモノにはポケットがございませんので携帯したい小物類は巾着にいれ、根付を用いて腰から提げるか、もしくはフトコロ(懐)や袖の袂(たもと)にちょいと入れることとなりますが、やはり懐や袂は落とす心配もあり無用心でございます。
そこで、いつしか考え出されたのが「たもとおとし」。
細い紐の両端に小さな袋状(もしくは籠状)の収納入れを付け、長襦袢を着た上に首から紐を提げて両側の袋を各々の袖の袂に落とし入れます。そして、その上からキモノをはおり帯を締めますと紐で繋がった袂の袋は落とす心配がございません。
人様の袂(たもと)の中ですので、この私とてそうそう目にする事はございませんから、確かな事はわかりかねますが、人それぞれ袂に入れる物も違いますでしょうし、その形態も一様ではなかったかと記憶しております。
濡れた懐紙や手ぬぐいを入れる場合は水分を通しにくい藤編みの籠状だったり、また良家の子女は金襴緞子や刺繍で飾られた豪華な「袂おとし」を袂(たもと)に忍ばせていたようでございます。

キモノを日常に着なくなった今世久しく、私もすっかりその存在を忘れておりましたが、
数年前こちらに暮らす手前どもの職人が、キモノを着て出歩く際ICカードなるものを駅の改札で手提げからその都度出し入れするのがなかなか面倒だとぼやいておりますのを耳にし、「それなら、袂(たもと)入れておくが良かろうに・・・」とつい口を挟みましたところ、「女のキモノは男性と違って、袂(たもと)の開きが大きいので薄っぺらなカードは落とすのが心配で入れられない。」とか、「ならば、袂おとしに入れておけば安心だろう」と、私もふと無意識に口にしたのですがそれを聞きつけた職人2人がすっかり張り切って早速自分用の袂おとしを作ったわけでございます。
袂落としを見たこともない今世の職人ですので、内心半信半疑のようでしたが使い始めてみるとその便利さに驚き、自動改札とやらを袂でタッチする様を嬉々として私に見せるほどでございました。
一度はこの日本から姿を消してしまった「袂おとし」が、今また現代で新たな形で見直され、そして再び使われるということはこの上なく嬉しいことでございます。

そこで、現代のキモノをお召しになられる方々にこの便利さを知っていただくべく、今回この「袂おとし」を小間物屋徳右ェ門でオリジナル復刻いたしました。
日本のキモノ文化の奥深さといいますか、そのフトコロ(懐)の深さの一端をほんのちょっとでも味わっていただければ、小間物屋冥利に尽きるというものでございます。

おっと、すっかり話が長くなってしまいました。(こいつはいけない、あちらの木戸が閉まってしまう・・・)
それでは、またのおめもじを楽しみに、これにて失礼とさせていただきます。

* 職人からの一言・・・両側いずれもICカードが入る大きさにしております。また、袂のなかでカードが飛び出さないように小さなスナップボタンをつけました。小さな小物を入れても大丈夫なように片方は蓋付きタイプにしています。紐にカニ環を付けて取り外しが出来るようにしてありますので、首から提げたままの状態でも左右の袋を入れ替えたりできます。ICカードはもちろん、ミニ鏡やちょっとしたお化粧品(脂とり紙や口紅etc.)、その他いろいろお好みに合わせてお使い下さいませ。


小間物屋 徳右ェ門謹製『復刻 袂おとし』 4,500円(税込)

* 実際に袂おとしを当店スタッフが使ってみました!(とても便利で感動モノです!)


1)袂おとしの片方にICカードを入れます。


2)袂おとしの紐を襦袢の上から肩にかけます。


3)袂おとしを肩にかけるとこんな感じになります。


4)紐が長い場合は、肩甲骨の辺りなど結び目がごろごろしない所で余分な紐を結びます。


5)襦袢の袂に袂おとしを入れます。


6)襦袢の袖に袂おとしを入れたところです。この後は通常通りに着物を着ます。


7)お出かけの時は、駅の自動改札でICカードの入った方の袂を袂おとしごとつまみます。


8)袂を自動改札にタッチ!これで駅の改札もバッグを開けずに、簡単にスルー!


こちらでご紹介した袂落としはWebショップでも販売中です。是非、ご覧下さいませ。

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